浜村徹三のIPM教室


IPM研究の国内第一人者である浜村徹三先生による、IPM(総合的病害虫管理)教室を順次掲載してまいります。
生産者の方に分かりやすいよう、作物別・病害虫別にまとめ、貴重な写真と共に解説していきます。

IPMというと天敵などの生物農薬のみを連想しがちですが、実際にはそれのみでIPMを確立することは困難で、
生物農薬以外の「次の一手」を打てるかどうかがむしろ重要です。そこが先生の研究成果であり、この教室の見どころです。

浜村 徹三 氏 プロフィール
1969 宇都宮大学修士課程修了 同年農水省園芸試験場 安芸津支場(広島)へ着任 
1970 同試験場虫害研究室発足 チリカブリダニの天敵研究を開始
1981 茶業試験場(静岡)へ赴任 ケナガカブリダニの天敵能力を解明
1986 農学博士(北海道大学)
1989 農水省野菜茶業試験場 環境部虫害研究室室長
    各種IPM研究プロジェクト、単行本・学術誌・専門紙への執筆、
    中南米(コロンビア・パラグアイなど)を中心とした海外での学術・研究活動に携わる。 
2005 東海物産(株)技術顧問として、より現場に近い形でIPM普及活動に入る。

イチゴの主要病害虫のIPM(総合的病害虫管理) 1 ハダニ編


ナミハダニ 赤色型メス成虫


 
ナミハダニ メス成虫と卵


 チリカブリダニ


ミヤコカブリダニ



「ダニ返し」設置例



 イチゴに発生する重要な病害虫としては、ハダニ類、アブラムシ類、コナジラミ類、アザミウマ類等の微小害虫、ハスモンヨトウやオオタバコガ等のチョウ目害虫、うどんこ病、灰色かび病等の病害がある。これらの病害虫が発生した時どのような天敵や薬剤が利用できるのかを簡単に判るように病害虫毎に天敵と薬剤を示した。

ハダニ類の対策

ハダニ類の解説

ナミハダニ(黄緑型と赤色型がある)、カンザワハダニ(赤ダニ)が主体。

イチゴでは主に葉裏に寄生し表面には変化が見られないので、発見が遅れがちである。

葉に網をかぶせたような状況になって気付くことが多い。発生が多いと株全体が萎縮する。

発生源は苗に付着している場合が多く、周辺雑草からの侵入もある。

発育は卵、幼虫、第一若虫、第二若虫、成虫と進むが、それぞれの脱皮の前に静止期と呼ばれる動かない期間がある。

卵から成虫までの発育期間は25℃では10日程度である。乾燥すると増殖が激しい。




生物的防除

チリカブリダニ
ハダニだけを食べるエリートカブリダニで、世界的に利用されている。
25℃では6日程度で発育しハダニより速い、一日4〜5卵を産み、2〜3週間にわたって産卵を続け、一生に70卵程度を産む。性比は5:1(雌:雄)前後で雌が多いのが特徴。商品名;カブリダニPP、スパイデックス、チリトップ。放飼は10a当たり2000頭をハダニの発生場所に重点的に放す。状況によって2〜3回放す。

ミヤコカブリダニ
チリカブリダニよりはハダニ制御能力はやや劣るが、環境の悪化に耐える力は強い(餌不足、薬剤耐性、高温耐性など)。商品名;スパイカル


化学的防除
マイトコーネフロアブル
神経系に作用すると考えられる殺ダニ剤。カブリダニをはじめ天敵類への影響はほとんどない。イチゴでは収穫前日までに1000倍を散布する。薬剤抵抗性を発達させないため、連用はしない。

オサダン水和剤
やや遅効的であるが幼虫〜成虫を殺す。ほとんどの天敵類に影響ない。ホコリダニ、サビダニにも有効。収穫前日までに1000〜1500倍を散布する。

粘着くん液剤
デンプンにより虫体を被覆し、窒息死させる。抵抗性の心配はないが、卵や静止期の幼虫、若虫には効果がほとんどなく、残効もない。天敵類に影響がないのでハダニの密度を下げたい時使う。収穫前日までに100倍をていねいに散布する。

コロマイト水和剤
成分は土壌放線菌に由来し、ハダニの全ステージ(卵〜成虫)に効果を示すほか、ホコリダニ、サビダニにも有効。カブリダニにも多少影響があるので、時期をずらして使う。収穫前日までに2000倍を散布する。緊急避難的な使用とし、連用はしない。


物理的防除
ダニ返し
(ビニールを45度以下の角度に折り返し、ハダニの侵入を防ぐ)

 管理上の注意点

育苗期の管理;病害虫の発生源の多くは苗に付着して本圃に持ち込まれることが多いので育苗期は防除を徹底し、健全苗の定植に心がける。また、定植後ビニール被覆までに間がある場合はアブラムシ等の飛来に対処するため、粒剤の植穴処理を行う。

病害虫の発生状況の把握;生物農薬は害虫の発生初期に導入する必要があるので、発生状況を把握する。コナジラミ、アザミウマは黄色粘着板、ハダニ、アブラムシは週一回の30枚の葉裏調査、収穫時の監視などによって、病害虫の発生に注意を払う。

化学薬剤の選択;授粉用にマルハナバチまたはミツバチを利用することを前提に、蜂や天敵に影響の無い薬剤を選んだ。多少でも影響がある薬剤は、その日数等を記した。

生物農薬導入後の管理;害虫数と天敵の定着、増殖等に注意を払い、害虫の発生が押さえ切れないと判断された場合は化学薬剤を散布する。その後も天敵が活躍できるような薬剤を選んだ。状況に応じて、部分的薬剤散布や部分的天敵放飼を行う。

物理的防除;害虫の侵入発生を防ぐため、防虫ネット(ハダニ以外の害虫)、黄色灯(ハスモンヨトウ、オオタバコガ等)などもできるだけ取り入れる。



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