バイオスティミュラントとは

「バイオスティミュラント」には様々な定義が提案されておりますが、誤解を恐れずに一口で言えば、「農薬や肥料以外の農業に有用な資材」とでも言えるでしょうか。
Patrick du Jardin氏の2015年のレビューは引用数が多く、「バイオスティミュラント」の定義の引用元とされております。
氏の定義は以下になります。
『バイオスティミュラントとは、栄養素の含有量に関係なく、栄養効率、非生物的ストレス耐性、および/
または作物の品質特性を高める目的で植物に適用される物質または微生物です。バイオスティミュラントは、そのような物質および/または微生物の混合物を含む市販製品も含めます』
また、氏は「バイオスティミュラント」という資材が新たに定義された理由のひとつに、農薬や肥料以外にも農業に有効な資材が以前からあるが、それらを改めて定義することで普及を促進するという目的を挙げています。
これは、野放しに流通している農薬や肥料以外の農業資材について、作用機序や根拠を提示させ農家を保護するという側面があるのではと読めます。
例えば、腐植物質は従来から有効性が明らかになっておりますが以下のような資材があります。
- 窒素やリン酸を含 ませ、「肥料」として登録されているもの
- そのものを大量に含む「政令指定土壌改良資材」として登録されたもの
- 腐植を微粉砕するなどしてその効能を高めたもの(しかし「肥料」や「政令指定土壌改良資材」としての登録の基準を満たさないもの)
なお、「バイオスティミュラント」自体のさらなる分類については、①成分から分類する方法や、②機能性から分類する方法が提唱されております。
➀成分から分類する方法
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■先のレビュー内でPatrick du Jardin氏がまとめたもの
- フミン酸・フルボ酸(Humic and fulvic acids)
- タンパク質加水分解物およびその他の窒素含有化合物(Protein hydrolysates and other N-containing compounds)
- 海藻エキスと植物成分(Seaweed extracts and botanicals)
- キトサンとその他のバイオポリマー(Chitosan and other biopolymers)
- 無機化合物(Inorganic compounds)
- 有益な菌類(Beneficial fungi)
- 善玉菌(Beneficial bacteria)
- 腐植質、有機酸資材(腐植酸、フルボ酸)
- アミノ酸およびペプチド資材
- 海藻および海藻抽出物、多糖類
- 微量ミネラル、ビタミン
- 微生物資材(トリコデルマ菌、菌根菌、酵母、枯草菌、根粒菌など)
- その他(動植物由来機能性成分、微生物代謝物、微生物活性化資材など)
■日本バイオスティミュラント協議会がまとめたもの
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■EU案
- 肥培効果 (Nutrient efficacy)
- 土壌中の有機物質の分解 (Degradation)
- 非生物的ストレスへの耐性 (Abiotic)
- 作物の品質・形質 (Traits)
- 土壌中、根圏、葉面圏(Rhizosphere と Phyllosphere)
- 腐植化(Humification)
以上より、要約するならば、先に挙げた成分を1つ、あるいは複数含む資材で、作物の生育に何らかの機能性を発揮するものが「バイオスティミュラント」であるということでしょうか。
機能性をもとに定義すべきであるという主張についてもう少し説明しておきます。
EBIC(European Biostimulants Industry Council:ヨーロッパ・バイオスティミュラント産業協議会)はバイオスティミュラントの定義や推進に関して大きな影響力を持ったEUの機関です。
EBICのWEBサイトの「Issues」には「Function defines biostimulant products」というトピックがあり、機能性がバイオスティミュラントを定義するべきであるとしております。これは様々な成分が複合して機能性を発揮するバイオスティミュラントについて、成分をもとに定義することが困難であるためです。
別のトピックには「Joint Statement by FERTILIZERS EUROPE, IVA, EBIC and ECOFI: Urgent need for conformity assessment bodies for fertilising products/plant biostimulants」、肥料製品/植物バイオスティミュラントの適合性評価機関の差し迫ったニーズとあります。
例えば本邦の食品分野において、「機能性表示食品」というものがあります。これはメーカーが該当する食品の機能性を試験し資料をまとめ消費者庁長官に提出し、その内容をもとに食品の外装に「科学的根拠を有する機能性関与成分及び当該成分又は当該成分を含有する食品が有する機能性」等の表示するという義務があり ます。農業分野のバイオスティミュラントについてもそのような運用が望まれているというところでしょうか。